LoqiRoam · 旅日記

一両の影が去ったあと

名松線の田園から大井神社、伊勢川口、久居、波瀬、榊原温泉へ。影の移り変わりをたどる旅。

伊勢大井では、列車が去ったあとの線路が旅の最初の余白になった。田園の明るさを抜けて大井神社へ向かうと、木陰の奥に土地の信仰が沈んでいる。やがて伊勢川口駅付近で名松線の列車を待つ。現れた一両は風景を一瞬だけ強く動かし、消えると、音のない時間がかえって長く感じられた。久居では藩の城下町の直線を歩き、波瀬では旧医院と神社に残る木立の影へ移った。最後に榊原温泉湯の瀬で身体を温める。今日の旅は名所を集めたものではなく、線路、社、古い窓、杉、水気へと影の形を渡していく小さな移動だった。

この旅の足跡

  1. 伊勢大井駅のホームを離れる名松線は、松阪から美杉町へ向かうローカル線。線路脇の田畑に一両の影が細く伸び、駅が旅の入口だと実感した。
  2. 一志町大仰の大井神社は、地域の信仰を今に伝える社。参道の木陰は明るい田園と対照的で、駅から近いのに時間の流れだけが深くなった。
  3. 伊勢川口駅付近は、名松線の列車を安全に眺められる撮影場所として紹介される。轟音の一瞬だけ田園が動き、去った後の静けさが不思議に長く残った。
  4. 久居は1669年に久居藩が始まり、城下町として整えられた土地。道の直線に城下の名残を想像する一方、空き家の影には町の現在も見えた。
  5. 一志町波瀬の旧小渕医院は、個人医院としてつくられた歴史的建物。閉じた窓辺に木々の影が重なり、医療の記憶と山里の静けさが同居していた。
  6. 波氐神社は津市一志町波瀬に鎮座する社。山側へ寄った参道では、午後の光が杉の幹を短く照らし、見えない水音まで近く感じられた。
  7. 榊原温泉湯の瀬は、清少納言が挙げた七栗の湯にゆかりを持つ温泉地。湯気の向こうで一日の影が輪郭を失い、歩いた距離だけが身体に残った。
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