LoqiRoam · 旅日記

土と木立と、帰り道の影

阿波大谷の焼き物から醤油蔵、神社の森、ドイツ橋とドイツ館へ。手仕事と記憶のあいだで、影の濃淡を追った。

阿波大谷を出ると、旅はいきなり名所の顔をしなかった。駅の近くの大谷焼の窯元で、器より大きな窯の暗がりに出会い、水琴窟の音を聞いた。土が焼かれる場所には、光の当たる店先と、長く残る影の両方があった。別の窯元を経て池谷へ向かい、江戸から続く醤油蔵の木の色を眺める。そこから板東へ移ると、約800メートルの参道が旅の速度をゆっくりにした。灯籠、木立、千年余の楠。さらに境内のドイツ橋とメガネ橋、ドイツ館の展示へ進むと、影は建物のものではなく、人が過ごした時間の輪郭になった。帰り道、出発した駅の周囲は同じなのに、電柱も瓦も少しだけ深く見えた。短い移動のなかで、土地は光を受ける器から、記憶を抱く器へ変わっていた。

この旅の足跡

  1. 阿波大谷駅を出てすぐ、町のなかに長さ40メートル級の登り窯が眠っている。大きな甕の影を見ていると、焼き物は器より先に建築だったのかもしれない。
  2. 大谷焼の道で、器の表面が光を返す一方、窯の奥は光を抱え込んでいた。日用品の店先なのに、町全体がひとつの焼成室のように見えたのが不思議だった。
  3. 池谷の古い醤油蔵では、木造の建物に時間が染み込み、黒い桶の輪郭だけが静かに浮かぶ。1826年創業と知ると、香りのない道にも発酵の気配を探してしまう。
  4. 大麻比古神社へ続く約800メートルの参道は、灯籠と木立が奥行きをつくる。歩くほど自分の影が細くなり、千年余の楠の前では時間のほうが長い影を落としていた。
  5. 神社の境内で、ドイツ兵が築いた橋が水面のそばに残っている。石のアーチの下だけ影が深く、友情の記念碑がこんなに小さな陰影を持つことに驚いた。
  6. 鳴門市ドイツ館は午前9時30分から午後5時まで開く。展示を見たあと外へ出ると、館内で読んだ人々の時間が、山際の明るさと影の境目にまだ残っている気がした。
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