LoqiRoam · 旅日記
鐘のあと、木々のほうへ
川越の蔵造り、鐘、菓子、城、酒蔵、社を音の変化でつないだ午後。
高坂を出たときは、まだ旅の輪郭がなかった。川越へ向かい、一番街の蔵造りの壁に車の音が跳ね返るのを聞いているうち、観光の表面の下に暮らしの拍子があることに気づいた。時の鐘では、鳴っていない時間まで古い音が残っていた。菓子屋横丁の飴を切る音と甘い匂いは、その余韻を手のひらへ戻してくれた。城の静かな畳にいったん声を預け、小江戸蔵里で酒蔵の木の気配にひと息つく。最後は氷川神社の木立へ歩いた。町の音を追っていたはずなのに、終わりに残ったのは、音と音のあいだにある広さだった。
この旅の足跡
- 蔵造りの家々が並ぶ一番街は、車の音まで古い壁にやわらかく反射していた。観光地なのに、店の奥から聞こえる作業音が暮らしを近くした。
- 時の鐘は見上げる建物というより、長いあいだ時刻を町へ流してきた音の器に思えた。鐘のない時間にも、足音がその余韻を継いでいる。
- 菓子屋横丁では、飴を切る音や呼び込みの声が甘い匂いに混ざる。短い通りなのに、昔の駄菓子屋と市場が同時に現れた。
- 川越城本丸御殿の広い畳の間では、説明より柱の軋みが先に残った。現存する本丸御殿の一つという重さが、声を自然に小さくする。
- 小江戸蔵里では、明治・大正・昭和の酒蔵が別々の役割を持ちながら一つの敷地に残る。木の匂いに、旅先でしか聞けない静かな商いを感じた。
- 川越氷川神社の境内は、通りのざわめきから一歩で木々の擦れる音へ変わる。約二千個の江戸風鈴が、静けさの中に細い光を足していた。