LoqiRoam · 旅日記
道を決めたのは、名所ではなく曲がり角
甲斐善光寺から城跡、木造建築、郷土料理、美術館と公園をつなぎ、曲がり角ごとに甲府の表情を変えて歩いた。
善光寺を出たときは、門前の歴史を少し眺めて終わるつもりだった。ところが寺の濃い空気は、門を一つ抜けただけで生活道の音にほどけた。細道を選んでいるうち、甲府城跡の石垣が街の真ん中に現れた。巨石の荒々しさを見上げたあと、明治の木造校舎へ向かうと、歴史は石だけでなく柱や窓にも残るのだと気づく。鳥もつ煮の甘辛い照りで歩く力を戻し、午後は山梨県立美術館へ。ミレーの作品を見たあと芸術の森公園へ出ると、室内の静けさが芝生と空の広さに変わっていった。名所を一直線につないだ旅ではない。何度も少しだけ進路を外し、そのたびに甲府の別の速度を拾った一日だった。
この旅の足跡
- 甲斐善光寺は信濃善光寺の本尊や寺宝を避難させたことに始まり、戒壇めぐりや鳴き龍も体験できる。荘厳なのに、門を出ると急に普通の道へ戻る落差が気になった。
- 甲府城跡の石垣は巨石をほとんど加工せず豪快に積んだもの。道路や県庁の近くに高い石垣が残り、城が街の背景ではなく足元に割り込んでくるのが面白い。
- 藤村記念館は明治8年に建てられた睦沢学校の校舎を移築した木造建築。駅前の広場にありながら、柱や窓のつくりが街の音を少し遠ざけるように感じた。
- 甲府鳥もつ煮は砂肝、ハツ、レバー、きんかんなどを濃い醤油だれで照り煮する郷土料理。名物を構えずに食べると、午後の歩行に小さな燃料が入る。
- 山梨県立美術館はミレー館を備え、《種をまく人》で知られる。開館は9時から17時、入館は16時30分までで、細い市街地から来ると庭の静けさが急に広がる。
- 芸術の森公園は美術館に隣接し、芝生や彫刻の間を歩ける。作品の意味を決め急がず、木陰と空の広さにまかせると、今日の曲がり角が一本の道に見えてきた。