LoqiRoam · 旅日記

水音から一本桜まで

矢祭山の峡谷と久慈川から町の味、珈琲、六百年余りの一本桜へ、影の質感を変えながら進んだ。

矢祭山で最初に見たのは、景色よりも影だった。花崗岩の白さにアカマツの細い影が落ち、久慈川の水面ではその輪郭がすぐに崩れていく。夢想滝へ向かう峡谷を抜け、あゆのつり橋を渡ると、山を眺める旅は川を横切る旅に変わった。道の駅やまつりで鮎の気配と町の明るさに触れ、珈琲香坊では八溝山系の水を使った一杯を想像しながら、外の緑を窓のこちら側へ引き寄せた。最後に戸津辺の桜へ向かう。花のない季節にも、旧道のそばに立つ樹齢六百年余りの幹は、遠い久慈川から見られてきた時間を抱えている。滝、橋、売り場、珈琲、古木。場所ごとに影の硬さが違い、帰るころには一日が静かな濃淡として残っていた。

この旅の足跡

  1. 久慈川のそばで、矢祭山公園の花崗岩の白い肌とアカマツの影が近くに重なっていた。高さ10メートルの夢想滝へ向かう道は、景色というより静けさの入口に見える。
  2. 久慈川に架かる長さ62メートルのあゆのつり橋。赤い橋脚の下で水面の反射がほどけ、渡る前と後で山の見え方が少し違って感じられた。
  3. 道の駅やまつりでは、久慈川の町らしい鮎の気配を旅の途中に置ける。山の影を見上げていた目が、地元の食と売り場の明るさへ戻る瞬間が面白い。
  4. 珈琲香坊は小田川の国道349号線沿いにあり、矢祭・八溝山系の水を使う珈琲店として紹介されている。山道の明るさから、カップの底に沈む静けさへ。
  5. 戸津辺の桜は樹齢600年超、樹高18メートルのエドヒガン。花の季節でなくても、旧道のそばで遠く久慈川から望まれたという幹の大きさに、時間そのものの影を感じる。
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