LoqiRoam · 旅日記
水の向きに沿って
西木の温泉から角館の蔵と武家屋敷を経て、桧木内川の水際へ。建物と地形の静かなつながりを追った。
生田を出て最初に西木温泉クリオンへ向かった。朝から開く湯に身を置くと、旅は距離を稼ぐことではなく、聞こえるものを減らすことから始まる気がした。角館へ移ってからは、武家屋敷だけを目指さず、外町の安藤醸造本店で商いの中に残る蔵を見た。石黒家では、古い銘のある門と簡素な庭の間に立ち、格式が声高に語られないことに気づいた。最後は桧木内川の堤へ出た。川は町の西を長く流れ、建物の記憶を景色へほどいていく。帰り道、静かな場所とは音のない場所ではなく、音の由来を考えられる場所なのだと思った。
この旅の足跡
- 西木温泉クリオンは角館から車で約10分、日帰り入浴は朝6時から夜9時まで。山菜や地元食材の料理もあると知り、列車の近くにこんなに深く息をつける場所があることに少し驚いた。
- 角館駅は田沢湖線と秋田新幹線、秋田内陸線が交わる町の入口。駅舎の先に武家町が続くと知って歩くと、観光地へ向かう人の流れより、発車を待つ短い沈黙が印象に残った。
- 安藤醸造本店は外町の下新町にあり、明治期のレンガ造蔵座敷を無料公開している。味噌と醤油の店なのに内部は小さな文化施設のようで、買い物の声と古い壁の沈黙が同居していた。
- 石黒家には寄棟萱葺屋根の主屋、薬医門、蔵、塀がまとまり、薬医門には1809年の墨書銘が残る。格式を示す建物なのに庭の簡素さが強く、静けさは豪華さの反対ではないと感じた。
- 桧木内川堤は角館中心部の西を流れる川沿いに約1950メートル、409本のソメイヨシノが並ぶ名勝。花の季節でなくても、長い堤防と水の向きが町の外縁を静かに教えてくれた。
- 桧木内川は西木町から角館の西側を蛇行し、やがて玉川へ合流する。水辺に立つと、さっき見た蔵と屋敷が川から少し離れて並ぶ理由を考えたくなり、旅の終わりに問いだけが残った。