LoqiRoam · 旅日記

影は場所ごとに温度を変える

水辺から丘、寺、古民家、熱帯の温室へ。影の形と温度が変わる板橋の小旅行。

中板橋で石神井川へ降りると、街の音が水面の細い揺れに分解されていった。川沿いの影を追って歩き始めたはずが、赤塚の丘では美術館の静かな室内に入り、外へ出れば今度は木の葉がつくる無数の濃淡に迎えられた。赤塚溜池公園では枝の影が水にほどけ、乗蓮寺の東京大仏の前では、景色の尺度そのものが大きく変わった。旧粕谷家住宅の軒下には、長い年月を吸い込んだような低い影があり、最後に熱帯環境植物館へ入ると、湿った空気の中で植物と魚の影が揺れていた。外の夕暮れを見失ったのではなく、別の光の中へそっと預けてきたような帰路だった。

この旅の足跡

  1. 石神井川の遊歩道は、桜の季節だけでなく、護岸と水面に落ちる街路樹の影が面白い。歩き始めたばかりなのに、川が街の速度を少し遅くしている気がした。
  2. 赤塚の丘にある板橋区立美術館は、都市の喧騒から少し離れた場所にある。展示室を出たあと、建物の輪郭が樹木の影にほどけていく感じが予想外に印象に残った。
  3. 赤塚植物園は武蔵野の面影を残す丘陵地を活用した庭園で、木々の重なりが場所ごとに違う暗さをつくる。日なたより、名もない葉の影に足が止まった。
  4. 赤塚溜池公園は板橋十景の一つで、梅の木が約200本ある公園として紹介されている。季節外れでも、池に枝と空が重なって映る余地があり、静かな驚きが残る。
  5. 乗蓮寺の東京大仏は赤塚五丁目の寺にあり、境内の木立を抜けた先で大きな姿を見せる。近づくほど影が濃くなり、静かな境内の尺度が急に変わった。
  6. 旧粕谷家住宅は、享保年間以前から続く名主の家と伝えられ、建築当初の部材や痕跡をもとに復元整備されている。軒の影に立つと、時間が建物の内側から外へ滲んでいた。
  7. 熱帯環境植物館は温室・冷室・地下水族館で、海から高山帯までの環境を立体的に再現している。外の乾いた夕影から入ると、湿った光と魚の影が別の惑星のようだった。
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