LoqiRoam · 旅日記

竹影から川明かりへ、三つの小さな発見

暮らしの食、文学と物語、山と川の景色を歩いてつないだ。

嵯峨嵐山駅を出ると、まず森嘉の店先に立ち寄った。名の知れた観光地の入口で、旅の最初に見えたのが一丁の豆腐というのがうれしい。そこから落柿舎へ向かう道では人の声が少しずつ薄れ、藁葺きの庵と柿の木、句碑が残る庭に、歩くこと自体が小さな読書のように感じられた。次の祇王寺では、平家物語の悲恋を知ったあとで竹と苔を見る。緑はただ静かなだけでなく、物語を抱えていた。常寂光寺では坂が視界を持ち上げ、大河内山荘でさらに遠くへ開けた。30年かけて築かれた庭から保津川と山並みを眺めると、景色もまた誰かの長い手仕事なのだと気づく。最後は渡月橋へ下り、水面と山の輪郭を眺めた。今日集めた三つは、豆腐の柔らかさ、苔の奥の物語、橋の上で変わる川の名前。どれも大声で主張しないのに、帰り道まで残る発見だった。

この旅の足跡

  1. 店先の豆腐が旅の最初の目印になった。森嘉は安政の頃創業で、なめらかな嵯峨豆腐を9時から販売している。湯豆腐の町に、こんな小さな入口があるとは。
  2. 藁葺きの落柿舎は、俳人・向井去来の庵を1770年に再建したもの。柿の木や句碑が生垣の内に点在し、芭蕉が三度訪れた場所なのに、風の音のほうが先に届く。
  3. 祇王寺は『平家物語』の悲恋に結びつく小さな尼寺で、竹林と青もみじに草庵が包まれている。仏間の像まで物語を背負うと知り、苔の静けさが急に深く見えた。
  4. 常寂光寺の仁王門は、伏見桃山城の客殿南門を移したものと伝わる。山門をくぐるだけで坂と木立が視界を持ち上げる。寺は静かなのに、景色は意外と大胆だ。
  5. 大河内山荘庭園は、俳優の大河内傳次郎が30年かけて小倉山に築いた庭。保津川や比叡山まで見渡せる高みで、映画の人が自分の景色を編集したように感じた。
  6. 渡月橋の下を流れる水は上流で大堰川、下流で桂川と呼ばれる。現在の橋は1934年完成で、山を映す水面を見ていると、名前の境目まで歩いてきた気分になる。
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