LoqiRoam · 旅日記
影の輪郭をたどる
食卓から柱状節理、信仰、湧水、石垣田、滝へ。山の影を追ううち、暮らしと地形の境目がほどけていった。
森宮野原を出たとき、旅はまだ駅前の小さな地図の中にあった。けれど少し離れたふみかふぇで時間を遅くすると、山へ向かう道の輪郭が見えてきた。見玉公園では、住民が草を刈り、木を伐ってひらいた場所から柱状節理を眺めた。自然の影だと思っていたものの中に、人の手の影も重なっていた。見玉不動尊では水音と祈りの気配に耳を澄まし、龍ヶ窪では森の影を映す水が、地中から絶えず生まれていることを知った。さらに結東の石垣田で、斜面を暮らしに変えた石の段差を見た。最後に蛇淵の滝へ向かうと、白い水筋の背後に谷の黒さが立ち上がった。影は光の反対側ではなく、土地が積み重ねてきた時間の形だった。
この旅の足跡
- 森宮野原駅から少し離れた栄村のふみかふぇは、月火金土日に11時から16時まで開く三席の店。小ささが不便ではなく、窓辺の午後を独占できそうで気になった。
- 見玉公園は住民が田んぼや林を整え、中津川対岸の柱状節理を望む散策路になった場所。人が刈った草の影と、削られた絶壁の影が向かい合うのが面白い。
- 見玉不動尊は眼病に霊験があると伝わり、秋山郷の入口に建つ。水音のそばの堂宇を想像すると、見えるものを願う信仰がかえって濃い影をつくっている。
- 龍ヶ窪は一日に約4万3千トンの水が湧き、池全体の水が一日で入れ替わると紹介されている。水面の明るさより、森が池へ落とす濃い影を見に行きたい。
- 結東の石垣田は秋山郷の暮らしを感じられる資源として紹介される棚田。石積みの段差が夕方の光を細かく分け、田そのものより境目の影が記憶に残りそうだ。
- 蛇淵の滝は大赤沢の中津川上流にあり、高さ約10メートルの玄武岩の滝。展望台から見る水の白さと、伝説を抱えた谷の黒さが同時に残る終着点だ。