LoqiRoam · 旅日記

看板の向こう、塩田平の小道へ

池と鳥居、田園の看板、山麓の古刹、展示館、温泉街をつなぎ、塩田平の道が景色から記憶へ変わる一日を歩いた。

中塩田を出て、まず池の中の島に建つ生島足島神社へ向かった。鳥居と水面の配置を眺めていると、駅からの短い移動でも土地の見え方が変わる。そこから舞田の細道へ入り、木の看板を頼りにCAFEたわわを探した。営業日は限られるけれど、田園の中に店を見つける行為そのものが、この旅の気分に合っていた。 午後は山際へ進み、前山寺の「未完成の完成塔」を見上げた。整っているのに、どこか余白がある。その印象を抱えたまま中禅寺へ下ると、今度は茅葺きの薬師堂が現れ、華やかさより屋根の重さが残った。道の表情が少しずつ変わるのが楽しい。 最後は無言館で足を止め、景色ではなく絵の前の沈黙に耳を澄ませた。別所温泉へ移り、北を向く観音堂に着くころには、歩いてきた小道や看板までが、この土地の記憶を指す小さな矢印に思えてきた。

この旅の足跡

  1. 池の中の島に本殿が浮かぶ生島足島神社は、大地そのものを御神体とする古社。大鳥居の向きと水面の静けさを見比べると、地図が急に立体的になる。
  2. 木の看板を見逃さずに入る舞田のCAFEたわわ。塩田の田園に囲まれた隠れ家らしい佇まいで、営業日が限られるぶん、開いていたら道中の小さな当たりだと思える。
  3. 前山寺の三重塔は、二層目と三層目に縁や勾欄がないのに「未完成の完成塔」と呼ばれる。藤の季節でなくても、山を背負った輪郭が本当に完成して見えるのか確かめたくなる。
  4. 独鈷山のふもとの中禅寺には、鎌倉初期の創建とされる茅葺きの薬師堂がある。華やかな塔のあとに訪れると、屋根の厚みと堂内の薬師像が時間の流れを遅くしてくれそうだ。
  5. 山王山の無言館は、戦没画学生の作品を静かに展示する場所。外の塩田平が明るいほど、館内で絵の前に立ったときの沈黙がどんな重さになるのか、歩きの途中で確かめたくなる。
  6. 北向観音は本堂が北を向く珍しい霊場で、別所温泉駅から徒歩10分ほど。温泉街の看板や坂道を抜けて堂前に立つと、旅の終点が方角そのものになるのが面白い。
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