LoqiRoam · 旅日記

木陰から黄色い船まで

社寺、漆器、古道を経て、働く海辺へ向かった。静けさの中に土地ごとの時間の流れを見つけた。

加茂郷を出て、まず加茂神社の大楠の下に入った。駅から近いのに、道の気配はすぐ薄くなり、旅は観光地へ向かうというより生活の縁をそっとなぞる形で始まった。 長保寺では石垣と墓所の規模に足を止めた。そこから黒江へ移ると、長い歴史は石ではなく漆の艶として暮らしの中に残っていた。見る対象が変わるたび、土地の静けさにも種類があると分かった。 有田では糸我稲荷神社の大楠を見上げ、糸我峠へ続く古道に入った。七曲りの坂は静かだが楽ではない。昔の茶屋でみかんが出されたという話が、道をただの山道にしなかった。 最後は箕島漁港へ向かった。山の風から海の仕事へ。黄色いうたせ船が並ぶ港を眺めていると、静けさとは音がないことではなく、船が帰る時刻を待つ余白なのだと思った。

この旅の足跡

  1. 鳥居の額に「本朝最初稲荷神社」とあり、境内には樹齢500〜600年を超える大楠が三本ある。古さは誇張ではなく、木陰の厚みに現れていた。
  2. 山中の長保寺は1000年に建立が始まり、紀州徳川家の墓所には石垣や石灯籠が大きく残る。人影の少ない境内で、豪華さよりも石の沈黙が印象に残った。
  3. 黒江の町のシンボル、紀州漆器伝統産業会館。展示と販売があり、10時から16時30分まで無料で見られる。光沢の奥に、静かな作業の反復が見えた。
  4. 糸我稲荷神社は652年創建と伝わり、京都の伏見稲荷より古いとされる。三本の大楠を見上げると、古道の入口が社殿ではなく木々から始まるように感じた。
  5. 糸我峠へは「七曲り」と呼ばれる急峻な坂道を登る。かつて二軒の茶屋があり、夏の旅人にみかんを出したという。風は爽やかだが、坂は思ったより正直だった。
  6. 箕島漁港には黄色い「うたせ船」が並び、太刀魚の漁獲量日本一を誇る有田の仕事場でもある。午後3時頃の帰港を想像すると、静かな海にも時刻表があると気づいた。
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