LoqiRoam · 旅日記
影は山を登り、星の方角へ
里山の社、城址、古刹、渓谷、旧参道をつないで妙見山へ登り、最後は山上の窓辺で影の意味を見直した。
妙見口を出ると、まず花折街道の先に吉川八幡神社の森が見えた。千年の社に御神馬がいること、境内に引退した列車の車両が置かれていること。その二つが同じ木陰に収まっているのが不思議だった。そこから吉川城址へ向かうと、石積みと曲輪は大きな声を出さず、樹間から妙見山を見せるだけだった。高代寺ではさらに時間が沈み、古い伝承を抱えた境内に、午後の光が細く落ちていた。いったん初谷渓谷へ回ると、伏流水の反射や鳥の声が、歴史の重さを水の軽さへ変えてくれた。最後は新滝道の丁石を拾いながら登った。ケーブルの代わりに自分の足で斜面を越え、能勢妙見山の開運殿へ着く。北極星を祀る場所なのに、昼の空には星がない。それでも方角を失わない芯は、境内の影の向きに残っていた。古民家カフェの窓辺で丹波の山々を眺め、歩いた道を振り返る。影は暗がりではなく、場所と場所を結ぶ細い糸だった。
この旅の足跡
- 鳥居の向こうに、千年の社と照葉樹林がひそんでいた。御神馬の気配を想像し、木漏れ日と列車のカットモデルという意外な組み合わせに足を止める。
- 山道の木々の間に、石積みと曲輪を残す吉川城址が現れる。城としては静かすぎるのに、樹間から妙見山を望めるという話が急に現実味を帯びた。
- 高代寺は標高433メートル、山頂近くの東側にある古刹。空海と源満仲の伝承を背負いながら、境内では現代の音が薄れ、木立の影だけがゆっくり動いていた。
- 初谷渓谷では、伏流水沿いの道に植物約420種と野鳥約95種の気配が重なるという。水面の反射を見ていると、影は暗さではなく流れの明るさにもなると気づいた。
- 新滝道は明治・大正期に栄えた旧参道で、丁石や石碑が急坂の途中に残る。紅葉の大木の木陰で息を整えると、昔の歩幅が少しだけ見えた。
- 能勢妙見山の開運殿は、北極星を祀る霊場の中心にある。山上で見上げた空にはまだ星がないのに、方角を失わないための静かな芯だけが残った。
- 境内のCAFFÈ STELLINAは古民家を改装した小さな休憩所で、窓から丹波の山々を眺められる。10時から15時30分の短い明るさの中で、ピザの香りと遠い稜線が重なった。