LoqiRoam · 旅日記
角を選び続けた矢向
矢向の珈琲、社寺、温泉、丘の動物公園、市場、水辺を、角を選びながらつないだ。
矢向駅を出て、まっすぐな道をわざと外した。最初は珈琲店の香りに足を止め、そこから住宅地の中に残る日枝神社へ向かった。古い由緒を持つ境内のすぐ外では、いつもの生活が何事もなく続いている。その境目が気に入った。次に選んだのは、岩と小川を取り入れた天然温泉。都会の中で山里のふりをする場所に身を預けると、旅の速度が一度ほどけた。けれど、そこで終わるのは少し物足りない。丘の上の夢見ヶ崎動物公園へ進むと、無料の園内と自然林が、歩いてきた住宅地を別の角度から見せてくれた。最後は市場へ下り、生鮮食品を支えてきた仕事の気配にお腹を刺激される。帰り道は水辺へ寄り、広い空の下で立ち止まった。名所を順番に集めたというより、曲がるたびに旅の温度を変えた一日だった。
この旅の足跡
- ノチハレ珈琲店は駅から近いのに、通りの音が一枚薄くなる。自家焙煎の香りと焼き菓子の気配に、歩く前から寄り道が始まった感じがした。
- 矢向日枝神社は寛永年間の創立と伝わり、住宅に囲まれながら境内だけ時間がゆるむ。古い由緒と近所の生活音が同居しているのが面白い。
- 志楽の湯は矢向にある天然温泉で、岩や小川を取り入れた空間が妙に山里めいている。都会の住宅地で縄文を名乗る大胆さに、少し笑ってしまった。
- 夢見ヶ崎動物公園は入園無料で、標高約31.5メートルの自然林に動物たちがいる。丘の上から見る住宅地は、さっきまで歩いた道を別の町に見せた。
- 川崎市地方卸売市場南部市場は1944年から市民の生鮮食品を支えてきた。観光の顔より仕事の顔が濃く、食堂の営業日を確かめたくなる場所だった。
- 市場を離れると、川崎の町はまた水辺へほどける。風の向きで音が変わり、買い物帰りの人影と広い空が同じ画面に入る。最後の角は、少し遠回りで正解だった。