LoqiRoam · 旅日記
丘の影から、水のひかりへ
古民家、丘の展望、科学館、美術館、季節外れのばら苑を経て、水辺の光へ向かった。
向ヶ丘遊園の駅前を出ると、街の明るさはすぐに坂道の木陰へ薄まった。最初に訪ねた古民家では、深い茅葺き屋根が土間を守るように影を落としていて、誰もいない建物の中に暮らしの温度だけが残っていた。枡形山へ上ると、今度は影の外側へ視界が開き、遠くの街並みが足元の暗がりと同じ静けさを帯びた。科学館では森のざわめきから宇宙の暗さへ入り、岡本太郎美術館では改修中の展示室の不在に、かえって強い輪郭を感じた。ばら苑の斜面では花の季節を外したことで、咲いていない場所にも記憶が宿ることを知った。最後に二ヶ領用水へ下りると、影は水面で細く揺れ、歩いてきた時間をほどきながら夕方へ流れていった。
この旅の足跡
- 茅葺きの旧伊藤家住宅は江戸中期の建築として移築され、屋根の深い影が土間まで落ちていた。人の気配がないのに、囲炉裏の記憶だけが残る。
- 枡形山展望台は標高の高い山ではないのに、木立の切れ目から川崎の街が急に広がる。足元の影と遠くの屋根が、同じ明るさに見えた。
- かわさき宙と緑の科学館はプラネタリウムを備え、森の中で地上の光から宇宙の暗がりへ切り替えられる。外の蝉の声まで遠く感じた。
- 岡本太郎美術館は生田緑地の斜面にあり、展示室が休室となる改修期間でも無料のミニ展示が予定されている。強い造形の不在さえ気になった。
- 生田緑地ばら苑は春と秋の開苑で、かつて向ヶ丘遊園の園内にあった。夏の斜面は花より葉と柵の影が目立ち、記憶だけが先に咲いている。
- 川崎市緑化センター周辺の二ヶ領用水は江戸時代からの農業用水で、現在は水辺の遊歩道になっている。流れる水だけが、夕方の影を細くほどいていた。