LoqiRoam · 旅日記

細い道の先で、湖がひらいた

鉄道の信号場から塔ノ沢、湯本、旧街道、畑宿を経て湖畔へ。

出山信号場では、列車が山を登るために進行方向を折り返す。その仕組みを見送るようにして、私は塔ノ沢へ下りた。ホームのすぐそばに鳥居がある深沢銭洗弁財天は、鉄道と信仰が妙に近く、最初の寄り道として出来すぎていた。 早雲寺では、箱根湯本が寺の門前町として始まったという話に出会った。裏手の森を想像しながら歩くと、湯本の賑わいも単なる温泉街ではなく、古い道の続きに見えてくる。あじさい橋で早川を眺めたところで、旅の向きを少し変えた。 畑宿へはバスに乗った。歩き続けることに固執しないのも、曲がり角を選ぶ旅の一部だと思う。寄木細工の模様を見て、甘酒茶屋へ旧街道を上る。石畳は足元に過去を残し、茅葺きの茶屋では麹の甘さが現在へ戻してくれた。 最後は元箱根の湖畔へ出た。山道の細さに慣れた目には、芦ノ湖の水平線が少し大げさに見える。けれど、迷いながら選んだ道の終わりには、これくらい広い景色がちょうどいい。

この旅の足跡

  1. 線路のすぐ脇に、鳥居とホームが同じ画面へ入る場所がある。電車を待つより、電車に見られている気分になった。
  2. 湯本の町が寺の門前から始まったという話を聞くと、商店街のざわめきまで少し古く聞こえる。裏手の森には固有の蝉もいるらしい。
  3. 朱いあじさい橋の下で早川が流れ、山の町なのに一瞬だけ街角の橋らしく見える。花の季節でなくても、水音は残る。
  4. 畑宿では木の模様が、平らな土産物ではなく山の手仕事として立ち上がってくる。寄木の細かさを見て、急に指先が旅を始めた。
  5. 茅葺き屋根の下で、砂糖を使わない麹の甘酒を飲む。約400年続く茶屋なのに、味は古びず、むしろ山道のほうが眠そうだった。
  6. 杉の道を抜けたあと、芦ノ湖の空は急に広すぎる。細い曲がり角を選び続けた旅の終わりに、湖だけが迷わず水平だった。
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