LoqiRoam · 旅日記
水の匂いが曲がり角を決めた
深草の古社から墨染、伏見桃山の名水と商店街を抜け、酒蔵と寺田屋へ。水脈が旅の向きを決めた。
JR藤森を出ると、駅前の名前より先に細い道の多さが目についた。最初は藤森神社へ向かい、宮中から伝わった本殿と、地下深くから湧く不二の水を見た。古い建物の説明を読んでいるのに、水だけは今も地面の下で続いている。その感覚を持ったまま墨染へ曲がると、薄墨色の桜の歌を由来にする寺に出会った。花がない日でも、名前だけで町の色が少し変わる。伏見桃山では御香宮神社の御香水に立ち寄り、神社の水が酒の町の水脈にもつながることを確かめた。そこから大手筋商店街へ入り、和菓子やパンや喫茶の店先を眺める。歴史の大きな看板より、買い物の袋を持つ人の歩幅のほうが町をよく説明している気がした。終わりは月桂冠大倉記念館と寺田屋。酒造道具の静かな秩序から、幕末の宿に残る緊張へ。伏見は一つの物語ではなく、水と商いと事件が何度も角を曲がって重なる場所だった。
この旅の足跡
- 藤森神社の本殿は1712年に宮中賢所から賜ったもの。不二の水は地下約100メートルから湧くという。古社なのに、水の話だけ妙に現在形で気になった。
- 墨染寺は、薄墨色の桜をめぐる平安時代の歌が寺名の由来になった場所。花の季節でなくても、墨染という名が路地の色を少し変えて見せる。
- 御香宮神社では、862年に香りのよい水が湧いたことが社名の由来と伝わる。名水百選の御香水と極彩色の本殿が、同じ境内で少し不思議に並んでいる。
- 伏見大手筋商店街はアーケードの下に、和菓子、パン、たこ焼き、喫茶などが連なる。名所の間を埋めるのは、こういう店先の速度なのだと思った。
- 月桂冠大倉記念館は1909年建造の酒蔵を使い、酒造用具や仕込みの歴史を見せる。中庭には名水さかみづも湧く。水が展示物ではなく、まだ働いている。
- 寺田屋は薩摩藩の寺田屋騒動と坂本龍馬襲撃事件にゆかりがあり、現在も10時から15時40分まで見学できる案内がある。低い屋根の下に、町の緊張が残る。