LoqiRoam · 旅日記

水面のこちら側、石段の向こう側

木の社、猫の駅、農のため池、河川敷、城の庭を経て、和歌浦の高台から海と町の影を眺めた。

布施屋を出ると、最初に出会ったのは大きな名所ではなく、木々の影が道を細くしていく伊太祁曾神社だった。そこから電車の終点へ向かうと、貴志駅は猫の姿をした駅舎で旅の温度を少し変えた。かわいらしい場所の奥に、線路を残し、人を呼び戻してきた土地の時間がある。平池では農業を支えるため池が空を映し、次のせせらぎ公園では、名前ほど水の多くない人工の流れと、球場を走る人の影を見た。水辺はいつも静かとは限らない。和歌山城の西之丸庭園に入ると、池泉回遊式の水面と茶室の気配が、街の音を薄い布で包んでくれた。最後は和歌浦天満宮の石段を上る。海と町を見下ろすころには、影を探していたはずの旅が、影の長さで一日の歩みを測る旅に変わっていた。

この旅の足跡

  1. 木々の名を背負う伊太祁曾神社では、参道の影が社殿へ向かって細くなる。木の神を祀る場所なのに、いちばん強く残ったのは光よりも足元の暗さだった。
  2. 貴志駅は猫を模した駅舎と、かつての駅長の記憶が重なる小さな終点。かわいらしさの奥に、一本のローカル線を残そうとする土地の工夫が見えて、少し胸が熱くなった。
  3. 平池緑地公園の大きなため池は、農地を支える実用の水面でありながら、遊歩道では空と水鳥を映す舞台になる。朝夕の光が違うなら、同じ道でも別の場所に見えるはずだ。
  4. せせらぎ公園は紀の川のそばに広がる芝生と遊歩道の場所で、野球場やサッカー場もある。名前に反して水路の水が少ないという意外さが、整えられた風景の影を長くした。
  5. 西之丸庭園、通称紅葉渓庭園は、池泉回遊式の水面と茶室紅松庵を抱く城内の庭。石や木の影が水に落ちるたび、城の威厳よりも人が休むための静けさが前に出てきた。
  6. 和歌浦天満宮は石段を上った高台から海と町を見渡せる。息が少し乱れたあと、眼下の屋根が夕方の影に沈んでいくのを見て、歩くこと自体が眺めをつくるのだと思った。
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