LoqiRoam · 旅日記

水音のあと、塔の影へ

美袋から直売所、川辺、山城、禅寺、古墳、五重塔へ。暮らしの音から古代の静けさまでをたどった。

美袋を出ると、最初に向かったのは名所ではなく、野菜や加工品が並ぶ直売所だった。旅は案外、土地の人が朝に選ぶものから始まる。そこから砂川へ移ると、川のせせらぎに水遊びの歓声が重なり、静かな自然という言葉が少しほどけた。山道では鬼ノ身城跡への足音が自分の現在地を知らせ、さらに鬼ノ城の高みでは風が古い城壁の輪郭をなぞった。張りつめた耳を宝福寺の伽藍で休ませ、雪舟の逸話が残る境内の沈黙に身を置く。作山古墳では、丘に見えるものが実は全長282メートルの巨大な墳丘だと知り、歩いても歩いても終わらない規模に驚いた。最後は田園の備中国分寺へ。五重塔の影と草の揺れる音が重なり、旅は大きな音ではなく、聞き分けられる静けさの中で終わった。

この旅の足跡

  1. たね井やは地元野菜や瀬戸内・山陰の品、ジビエまで並ぶ直売所で、朝の売り場には土地の暮らしが音のように重なっていた。旅の最初に、名所ではなく食卓の気配を拾えたのがうれしい。
  2. 砂川公園では鬼城山の山裾を砂川が流れ、橋や歩道のそばにキャンプ場と水遊びの設備がある。川のせせらぎに子どもの歓声が混ざると、自然は静寂だけではないのだと気づいた。
  3. 鬼ノ身城跡へ向かう道は車で近づきやすい観光地の雰囲気から離れ、最後は徒歩で山へ入る。城は扇を広げたような四段構えだったというが、今は風と足音が縄張りを教えてくれる。
  4. 鬼ノ城は標高のある山上に築かれた古代山城で、復元された西門の向こうに視界が大きく開く。遠くの車音が薄れ、風だけが城壁の線をなぞっているように聞こえた。
  5. 井山宝福寺は雪舟が修行した禅寺で、境内には1376年の墨書銘が見つかった三重塔と、重厚な伽藍が残る。山の風のあとに訪れると、鐘のない時間まで音として感じられた。
  6. 作山古墳は全長約282メートル、岡山県で二番目の規模を持つ前方後円墳だ。草木に覆われ一見ただの丘に見えるのに、登るほど地面の大きさが身体へ返ってきて、古代の権力を音のない圧力で感じた。
  7. 備中国分寺の五重塔は田園の中に立つ高さ34.32メートルの塔で、創建は奈良時代にさかのぼる。風に揺れる草と遠い自転車の音を聞きながら、旅の終わりを垂直な静けさに預けた。
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