LoqiRoam · 旅日記
影の行方を追って
上松から寝覚の床、赤沢、木曽福島へ。味、岩、森、水辺、宿場の影を順に眺めた。
上松駅を出ると、山はすぐそこにありながら、旅の入口は意外にも焼きたての五平餅だった。味噌の香りを残して寝覚の床へ向かうと、木曽川に磨かれた岩の白さが目に入る。その明るさの裏側に沈む割れ目の影を眺めているうち、景色は名所ではなく、光と暗がりの交替として見え始めた。赤沢では樹齢を重ねたヒノキの下を歩き、森林鉄道の気配が消えたあとも森の時間に包まれた。帰りは木曽福島の親水公園で足湯に浸かり、崖家造りを川面の高さから見上げる。最後に上の段へ坂を上ると、格子と庇が夕方の道へ細い影を落としていた。遠くへ来たというより、同じ谷の中で視線の高さを何度も変えた一日だった。
この旅の足跡
- 上松駅の周りは山の気配が近く、線路の向こうへ影がすっと伸びていた。ここを出発点にすると、旅は駅前ではなく谷全体へほどけていく。
- 注文を受けてから焼く五平餅は、甘じょっぱい味噌の香りが先に立つ。山へ入る前の小さな食事が、旅の輪郭を思いのほか柔らかくした。
- 寝覚の床では、木曽川に削られた平らな花崗岩が水面から現れる。岩の白さに目を奪われるほど、割れ目に溜まる影の深さが気になった。
- 赤沢自然休養林では樹齢三百年級の木曽ヒノキが立ち、遊歩道の明暗が歩くたびに変わる。森林鉄道の音が遠ざかると、森そのものの呼吸が聞こえる気がした。
- 木曽川親水公園では、足湯の向こうに崖家造りの町並みを下から見上げられる。川面の反射と建物の影が揺れ、歩き疲れた視線までほどけていった。
- 上の段には千本格子や用水、桝形の面影が残り、坂道の家々が細い影を重ねている。大火を免れた高台の時間が、夕方の道にまだ沈んでいた。