LoqiRoam · 旅日記
まっすぐ行かない鬼北
近永の建築と生活道から広見川へ抜け、地域の味と中世の寺院跡をつないだ、寄り道中心の鬼北歩き。
近永を出て、駅前を目的地にしないことだけ決めた。最初に見つけた鬼北町庁舎は、昭和の役場なのに屋根の線が妙に軽く、町の入口で思わぬ建築の寄り道になった。商店街へ曲がると、観光地の顔より生活の顔が近い。そこから三角ぼうしで雉肉や鬼灯ジャムを眺め、買うものを決める前にまた道を変えた。広見川に出た瞬間、建物の間にいた身体が水と空の幅へ放り出される。川の魚の話を知ってから見ると、ただの景色ではなく、町の食卓へ続く流れにも見えた。善光寺薬師堂では室町の建物が山あいに残り、最後は奈良山等妙寺の歴史へ向かった。『なぜこの谷に』という疑問を抱えたまま歩くのが、いちばん旅らしかった。名所を順番に回ったというより、曲がるたびに町の厚みが一枚ずつ現れた一日だった。
この旅の足跡
- 駅前から少し外れると、昭和33年の打ち放しコンクリート庁舎が現れた。双曲放物線の屋根まで実用一点張りではなく、役場なのに空を見上げさせる。
- 近永商店街は観光用に整えられた舞台というより、店と住宅が混じる生活の道だった。曲がるたび、祭りの準備の気配と静かな日常が入れ替わる。
- 広見森の三角ぼうしには、熟成雉肉や鬼灯ジャムのような少し意外な土地の味が並ぶ。鬼の町なのに、買ったのは山の香りのする小さな甘味だった。
- 広見川は四万十川水系の大きな支流で、鮎やウナギ、川蟹の気配を抱えて流れている。町中の道が突然ほどけ、水面だけが先に遠くへ行った。
- 善光寺薬師堂は室町期の禅宗様式を残す国重要文化財で、四国では最南端の貴重な建物だという。山道の先で、屋根の形が急に遠い時代の輪郭になった。
- 奈良山等妙寺歴史交流館では、山中にあった中世の寺院の痕跡をたどれる。谷へ向かう道は少し気まぐれで、着いた頃には『なぜここに寺が』という疑問が楽しみに変わっていた。