LoqiRoam · 旅日記
影の長さを測る日野
駅舎から商人町を抜け、最後はダム湖に伸びる山影を眺めた。
日野駅の木造駅舎で、柱のあいだに落ちる朝の明るさを見てから歩き出した。線路は町を分けているようで、実際には古い時間へ向かう細い入口だった。綿向山を背にした馬見岡綿向神社では、木立の影が山の頂へ続いているように見えた。そこから商人町へ入り、薬店の大きな看板と土蔵の喫茶でひと息つく。近江日野商人館では、行商の広がりが本宅の静かな部屋に折りたたまれていた。旧山中正吉邸の縁側では、誰かが座っていたかもしれない場所だけが柔らかく明るい。最後に日野川ダムへ移ると、町家の軒下で見てきた影が、水面の上で山の輪郭になった。遠くへ来たというより、同じ光を違う器で見直した一日だった。
この旅の足跡
- 大正期から残る木造駅舎は、柱のぬくもりを保ったままカフェと案内所になっていた。ホームの影が、列車より先に旅を始めている。
- 綿向山の頂にあった神を迎えた里宮は、町なかにありながら山の気配を抱えている。木立の影を見上げると、遠い頂上が少し近く感じられた。
- 大きな「万病感応丸」の看板が古い薬店の記憶を町角に留めている。土蔵の喫茶で休むと、看板の影まで店の一部に見えてきた。
- 旧本宅に常設展があり、日野商人の三百年の商いを建物の奥行きで感じられる。庭の明暗を眺めていると、売買より長く残るものが気になった。
- 西大路に残る旧山中正吉邸は、日野商人の本宅建築として保存修復されている。縁側に落ちる影が、豪商の暮らしを静かに縮めていた。
- 日野川ダムの湖畔には散策道とダム公園が整い、3.2キロの水面が鈴鹿山脈を映す。夕方、堤体の影が水へゆっくり伸びていた。