LoqiRoam · 旅日記
角を選ぶと、町の時間がずれる
井細田から五百羅漢、酒匂川、城下の史跡と商家、文学の路地を経て御幸の浜へ抜ける、密度と開放感の旅。
井細田を出て、駅へまっすぐ向かう気分にはならなかった。北へ少し寄ると、五百羅漢の像たちが思ったより近い距離でこちらを見ている。そこから酒匂川へ抜けると、さっきまでの木と壁の密度がほどけ、鳥のいる広い空になった。川辺で一度迷い、今度は城下町の側へ戻る。墓所に残る石、薬と菓子を扱い続ける商家、文学者の名前を抱えた西海子小路。どれも派手に呼び止めるわけではないのに、曲がるたびに小田原の過去が別の顔で現れた。最後は御幸の浜へ出た。海を見た瞬間、今日の道順は最初から決まっていたのではなく、狭さから広さへ逃げ続けただけなのだと気づく。それで十分だった。
この旅の足跡
- 木造の羅漢像が立像と坐像に分かれて並ぶと知り、駅の近くなのに空気だけが急に静かになるのが不思議だった。
- 酒匂川は小田原を南北に貫き、河口には鳥獣保護区もある。建物の隙間からここまで空が広がるとは、少し意外だった。
- 北条氏政・氏照の墓所には五輪塔や笠塔婆型墓碑、生害石が残る。街の真ん中で戦国の終わりに触れる感じがした。
- 薬と菓子を同じ家が扱い、明治十八年築の蔵を小さな博物館にしている。店先の大きな構えに、思わず足が止まった。
- 西海子小路は文学者ゆかりの道で、谷崎潤一郎と佐藤春夫の小田原事件の舞台でもある。路地は静かなのに話が濃い。
- 御幸の浜は伊豆半島や三浦・房総半島まで見渡せる海岸。最後に来ると、ここまでの細い道が一枚の地図にほどけていく。