LoqiRoam · 旅日記

水音の高さをたどる

名張の旧町から赤目の渓谷へ、水路、歴史、祭礼、滝、川、菓子の音をつないだ寄り道。

名張に着いたとき、旅はまだ輪郭を持っていなかった。旧市街のひやわいと水路を歩くと、町家の間を流れる細い気配が、道を選ぶ目印になった。川沿いの旧喜多藤別館では、かつて人が集まり眺めた水面を想像し、名張藤堂家邸跡では静かな建物と残された記録の重さに耳を澄ませた。神社の木立を抜けたところで、旅は町の記憶から赤目の山へ切り替わる。赤目四十八滝では水音が景色を押し広げ、帰りの赤目口駅でようやく人の歩みが戻ってきた。名張川の穏やかな流れでその勢いをほどき、最後はかたやきの硬い音を手の中に残した。遠くへ行ったというより、同じ土地の音が少しずつ別の表情を見せてくれた一日だった。

この旅の足跡

  1. 名張の旧市街では、水路と江戸後期から昭和初期の町家が隣り合っている。ひやわいと呼ばれる細い路地まで続き、見えない水音を探して歩きたくなった。
  2. 旧喜多藤別館は名張川沿いの元料亭旅館で、二階の川側に大きなガラス窓があったという。宴のざわめきは消えても、川を眺める席の気配が残っている。
  3. 名張藤堂家邸跡では、藤堂家ゆかりの兜や書状などが屋敷とともに公開されている。静かな建物の中で、武具よりも残された記録の重さに驚いた。
  4. 宇流冨志禰神社には、名張藤堂家から寄進された能・狂言面45点が伝わる。境内の木立は足音を丸くし、祭りの賑わいを想像すると静けさが別の顔に変わった。
  5. 赤目四十八滝は、仏名に由来する滝名が多く、渓流と森そのものが修行の場だった。水音を追うほど話し声が遠のき、名前の数だけ響きがあるのか確かめたくなった。
  6. 赤目口駅は赤目四十八滝からのバス接続を担う小さな入口だ。山へ向かう靴音と帰りを待つ気配が同じホームに重なり、旅の始まりと終わりが近く聞こえた。
  7. 名張川の親水空間は散歩やジョギングにも使われ、祭りや花火の舞台にもなる。滝の強い音を思い出しながら水面を見ると、川には帰り道の静けさがあった。
  8. 大屋戸製菓のかたやきは、忍者の携帯食ともいわれる伊賀の銘菓で、一枚ずつ気温や湿度に合わせて焼かれる。硬さを割る音まで味わってみたくなった。
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