LoqiRoam · 旅日記
影がほどける峡南の道
下部温泉の湯治場、西嶋和紙の手仕事、身延の門前と杉林をつなぎ、影の変化を追った一日。
市ノ瀬を出て、まず下部温泉へ向かった。線路の脇に山が迫り、下部川沿いの温泉街では、湯治場らしい静けさが歩く速度をゆっくりにしていく。そこから西嶋へ移ると、今度は水と手の仕事が主役になった。紙漉きの歴史を知ってから眺める白い紙は、ただ明るいだけではなく、長い時間を薄く抱えているようだった。身延駅前でひと息つき、バスで門前町へ入る。久遠寺の287段は、登るほど杉の影が深くなり、足元の一段が小さな境目に変わっていった。最後は御廟所の方へ静かに歩き、夕方の山肌に伸びる影を見送った。遠くへ来たというより、同じ光の中にいくつもの時間が重なっていた。
この旅の足跡
- 下部温泉駅に降りると、山あいの線路と木立の影がすぐそばにある。静かな温泉街へ向かう道は、旅の速度を自然に落としてくれそうだ。
- 下部温泉は下部川沿いに広がる古い湯治場で、源泉は飲むこともできるという。湯気の向こうの路地に、長い時間の影が見える気がした。
- 西嶋和紙は1571年に武田信玄へ献上された由来を持つ。紙漉きの水面に手の動きが重なり、影が一枚の白さへ変わるのを見てみたい。
- 身延駅前では、山から下りてきた空が少し広くなる。列車と富士川の気配を感じながら、次の石段へ向かう前に甘いものを探したくなった。
- 久遠寺の三門から本堂へ続く菩提梯は287段。杉林の影が段ごとに濃くなり、登ること自体が景色の見え方を変える道になっている。
- 身延山の奥へ進むと、御廟所は墓所と御草庵跡を守る静かな霊域として残る。夕方の山肌に伸びる杉の影を、言葉少なに見送りたい。