LoqiRoam · 旅日記

峠を越えたら、葡萄のほうへ

笹子の酒蔵から旧道、峠の巨木、勝沼の葡萄とワインの歴史をつなぎ、丘の眺めで終える旅。

笹子では、駅を出てすぐに旅を始めないことにした。まず酒遊館で土地の味に触れ、山へ入る前の町の気配を少しだけ拾う。そこから旧道へ折れると、笹子隧道の装飾的な坑門が現れた。道路は人を運ぶだけのものだと思っていたのに、ここでは建物のように立っている。さらに古道を登り、矢立の杉の前で足を止める。武士の伝承を抱えた巨木なのに、周囲にはベンチがあり、今の旅人にも休める余白がある。峠を越えて勝沼側へ下ると、景色は森から葡萄畑へ変わった。大善寺の伝説、宮光園の醸造の記憶をたどるうち、道の曲がり角がそのまま産業の歴史を曲げてきたように思えてくる。最後はぶどうの丘へ上がった。ワインの香りを残したまま盆地を見渡すと、最初に選んだ小さな曲がり角が、思いのほか遠くまで旅を連れてきていた。

この旅の足跡

  1. 笹子の酒遊館は、大正8年創業の蔵元に併設され、日本酒やワインが並ぶ場所。山へ入る前なのに、旅の気配がもう発酵しているのが面白い。
  2. 旧笹子隧道は1938年竣工、約239mの登録有形文化財。装飾的な坑門を前にすると、ただの通過路だった場所が急に建築の顔を見せる。
  3. 矢立の杉は樹齢1000年ともいわれ、樹高約28m。武士が矢を射立てた伝承と、ベンチのある静かな遊歩道が同居しているのが意外だった。
  4. 大善寺は奈良時代に開かれ、葡萄を伝えた伝説から“ぶどう寺”と呼ばれる。山を下りた途端、祈りと農の話が一本につながるのが不思議だ。
  5. 宮光園は宮崎光太郎の葡萄酒醸造所と観光葡萄園を資料館として整備した場所で、9時から16時30分まで開館。ラベルの向こうに産業の始まりが見える。
  6. 勝沼ぶどうの丘は葡萄畑の中の小高い丘にあり、ワインカーヴや展望テラス、天空の湯も備える。最後に登ると、曲がり角の多かった一日が盆地へ開く。
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