LoqiRoam · 旅日記
水窪で、音の向きを変える
向市場から水窪の商店街、食堂、水窪ダム、布滝、山住神社へ、音の変化をたどった。
向市場を出発したとき、目的地を急いで決める気持ちはなかった。まず水窪川へ向かう線路の気配を思い、その先の水窪駅から商店街へ歩いた。約四百メートルの道には、名所らしい大きな声ではなく、店先の動きや人の生活が小さく重なっている。食事の営業曜日を確かめながら歩幅を整え、そこから車で山側へ移った。水窪ダムでは湖と山王峡の広がりに耳が追いつかず、布滝では細い水の流れが岩肌を伝っていた。最後に山住神社の杉の下へ入ると、町の音は消えるのではなく、遠くへほどけた。列車、水、店、森。別々だった音が、帰り道にはひとつの長い呼吸のように感じられた。
この旅の足跡
- 向市場の駅を出ると、水窪川へ向かう山の線路がすぐそばにある。列車が去ったあと、静けさは空白ではなく、遠くの流れを待つ時間に変わった。
- 水窪駅の周りには約400メートルの商店街が続く。観光のために整えられた道ではないからこそ、店先の声や戸の音が町の輪郭をそのまま伝えてくれそうだ。
- 駅から少し歩いた食堂の候補を調べると、営業曜日が店ごとにかなり違う。今日は確実さを優先して、山へ入る前の昼食を水窪駅周辺に置くことにした。
- 水窪ダムは岩と粘土で築かれたロックフィル式で、湖面の向こうに山王峡を望める。水の音は小さくても、山の大きさが耳の中に残る景色だ。
- 布滝は水窪河内川へ白い布のように落ちる高さ約40メートルの滝。水量が少ない日もあるという説明に、勢いより持続する細い音を聴きたいと思った。
- 山住神社には幾星霜を経た杉が残り、犬の信仰でも知られる。森の中では人の声が急に小さくなり、最後に残るのは枝を渡る風と足元の土の音だった。